用語解説目次
DSCR とは
- DSCR の用途
- DSCR の定義
DSCR の計算式
- CFADS (Cash Flow Available to Debt Service) とは
- DS (Debt Service) とは
事業別 DSCR 水準
DSCRとは
DSCRの用途
DSCR は Debt Service Coverage Ratio の略で、借入金の返済に充てられるキャッシュフローがどれだけあるかを測る指標だ。後ほど正確な定義式を記載するが、基本的には借入金の返済と、返済に充てられるキャッシュフローの倍率となる。数値としては、基本的に 1.0 ~ 2.0 の間となり、数値が大きいほど返済能力がある事業だということができる。
DSCR の用途としては、主に資金を借り入れる際の金融機関との交渉に用いられる。銀行などの金融機関は、融資前に財務モデル等を用いて返済計画を協議し、将来の DSCR、つまり返済額に対してどれだけのキャッシュフローを確保できるか確認をする。安定した事業であれば低い DSCR で融資を承認することもあるし、不安定な事業であれば、高い DSCR を要求することになる。また、DSCR は単なるの確認指標ではなく、金融機関から 合意した DSCR の水準を維持するよう契約書の条項に盛り込まれ、水準を維持できなかった場合、契約上何らかのペナルティが発生するようになっていることが多い。
DSCRの定義
DSCR は以下の数式によって定義される。
下記にて詳細を記載するが、CFADS とは Cash Flow Available to Debt Service の略で、その名の通り返済に充てられるキャッシュフローを指す。Debt Service とは、融資を受けた金融機関に対する支払金利と元本返済の合計である。上記の式から、CFADS = DS の時、DSCR = 1.0 となる。ただし、これは返済に充てられるキャッシュフローと金利を含めた借入返済額が等しい状態なので、DSCR は 1.0 以上であることが基本的な融資条件となる。
DSCR = CFADS (返済に充てられるキャッシュフロー) ÷ DS (金利 + 元本返済)
Sample: CFADS = 100億円、DS = 80億円 の場合
DSCR = 100 ÷ 80 = 1.25
DSCRの計算
CFADS (Cash Flow Available to Debt Service) とは
上記でも述べた通り、CFADS とはつまるところ借入金の返済に充てられるキャッシュフローであるため計算上の明確な定義はなく、融資を実行する個別案件ごとに、融資契約書内で厳密に定義される。一般的には、事業活動から得られる収入から、必要な費用や設備投資、税金を支払った後のキャッシュフローとなる。株主への分配される前のキャッシュフローという意味では、FCFF (Free Cash Flow to the Firm) に株主や金融機関からの資金調達を加えたものに計算上は近い。現金での返済能力を測ることから、会計的な利益ではなく毎期ごとのキャッシュフローをベースに計算される。
厳密な計算は個別の融資契約書にて定義されるが、一般的な計算は以下のような式となる。
CFADS = 売上現金収入 - 事業現金支出 - 設備投資 + 株主資本増資額 + 借入額
PL 項目とBSの増減から Cashflow を間接的に計算する場合、Working Capital の増減を加味した下記のような計算となる。
CFADS = 売上 - 事業費用 +/- 運転資本増減 - 設備投資 + 株主資本増資額 + 借入額
DS (Debt Service) とは
DS とは Debt Service の略で、融資を受けた金融機関に対する支払金利と元本返済の合計となる。
Debt Service = Interest Payment + Debt Repayment
Debt Service = 支払金利 + 元本返済額
支払金利の金額は、通常借入残高 x 利率 で毎期ごとに計算されるが、元本返済の額は金融機関と DSCR を計算しながら逆算することになる。例えば、借入額が 500 億円で、借入から 1 年度の CFADS が80億円、契約利率が 2.5%、Target DSCR = 1.25 となっている場合の、1年後の元本返済額を逆算してみる。まず、DSCR の定義式から、金融機関に払わなければならない Debt Service を逆算する。
Debt Service = CFADS ÷ Target DSCR
Debt Service = 80億円 ÷ 1.25 = 64億円
次に、Debt Service の内訳である支払金利の額を計算する。
Interest Payment = Remaining Debt Balance x Interest Rate
支払金利 = 500億円 x 2.5% = 12.5億円
最後に、Debt Service と支払金利から、元本返済に充てられる金額を計算する。
Debt Service = 支払金利 + 元本返済額
64億円 = 12.5億円 + 元本返済額
元本返済額 = 51.5億円
このように、DSCR をベースとした融資契約では、元本返済が年によって異なるため、融資契約上は元本不均等返済と呼ばれることが多い。
事業別DSCR水準
上記で述べた通り、DSCR とは金融機関と借入について協議する際の指標であり、安定した事業であれば低い DSCR で融資を受けられることもあるが、不安定な事業であれば、高い DSCR を維持することを貸して側から要求されることになる。究極的には案件ごとのキャッシュフローの安定性によって要求される DSCR の水準は個別に異なるが、キャッシュフローの安定性は事業、ひいては業種に依存する側面も大きいため、融機関から要求される DSCR も事業内容やスキームによってベンチマークが存在する。尚、キャッシュフローの安定性については、長期的な販売契約の締結や、長期的な原材料の供給契約が締結できているか、またそれぞれの契約における販売価格や供給価格がどこまで固定化されているか、といった点を評価することになる。
事業内容やスキームごとの DSCR 水準について、きんざいから出版されている「プロジェクトファイナンスの理論と実務」 (*1) にて下記のような言及があるため参考として引用する。
DSCR 1.20 ... 一般的な PPP (Public-Private-Partnership) 事業など
DSCR 1.25 ... オフライク契約が結ばれているプラント事業など
DSCR 1.50 ... オフテイク契約が結ばれていない資源開発事業など
DSCR 1.75 ... 交通分野のコンセッション事業など
DSCR 2.00 ... オフテイク契約が結ばれていない、または価格へのヘッジリスクがないマーチャント発電事業など
また、JICA から発行されている「PPP プロジェクト研究」(*2) のレポートでは、開発途上国向けの PPP 案件について下記のような記載が見られる。
PPP 事業やリスク負担の内容により異なるが、開発途上国には国としてのリスクが上乗せされるため、一般に要求される収益水準よりも高めであり、以下の水準が目安として用いられる場合が多い。
DSCR > 1.2~1.5 以上(ストレステスト後の数値。民間事業者が負担するプロジェクトリスクの内容や金融機関のリスク感覚・プロジェクト習熟度などにより大きなばらつきがある)
国土交通省の調査で「対象事業のPFIとしての事業性の有無に関する意見」(*3) というレポートが公表されているが、DSCR について下記のような事業者の意見も寄せられている。No 184 から No 196 までの意見があるが、No 184 から No 186 までを下記に引用する。
No.184:
BOTであれば、最低でも、DSCR1.15くらいは確保しておきたい。ただ、現実はあまりそこまではないし、それ以下だからといってやめたというわけではない。ただ、箱モノでも1.02といったところであれば少し恐い。また、オペレーションが増えてくれば、高めを設定した方がよい。
No.185:
DSCRがどれくらい必要かということについては、事業による。銀行としては、平均DSCRで1.2程度は必要と思っているが、事業者から見れば、別の意見があるかもしれない。
No.186:
通常プロジェクトファイナンスであれば、DSCR1.2~1.3はないといけないのだが、現状のBTO案件では1.0すれすれがあたり前になってきている。定義付けはいろいろあるが、固定化した表現を使うと、地方公共団体を惑わせることになると思う。