プロジェクトファイナンス (Project Finance) とは

May 22, 2022
Finance
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用語解説目次

プロジェクトファイナンスとは

プロジェクトファイナンスのメリット・デメリット

プロジェクトファイナンスの基本ストラクチャー

プロジェクトファイナンスの市場規模

プロジェクトファイナンスにおけるリスク

プロジェクトファイナンスの事例

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プロジェクトファイナンスとは

プロジェクトファイナンスとは、プロジェクトから得られるキャッシュフローのみを返済の原資として実施される融資を言う。例えば、豊洲商事という会社が有明プロジェクトという商業ビルの開発を企画していたとする。通常の銀行借入では、豊洲商事が銀行から資金を融資してもらい、その資金を有明プロジェクトに投下する形となるが、プロジェクトファイナンスでは、別会社として有明プロジェクト社(仮)を設立し、有明プロジェクト社として銀行から融資を受ける形となる。プロジェクトファイナンスは、安定的なキャッシュフローを生み出す事業に向けた資金調達の手法として活用されることが多い。例えば発電所、空港、鉄道などといったインフラストラクチャー (社会資本)を建設して長期に渡って運営する事業などが代表例となる。対義的な資金調達の手法であるコーポレートファイナンスにおいては、資金の借手となる企業自身が返済義務を負う為、資金の貸し手である銀行(レンダー)は、資金使途たるプロジェクトのキャッシュフロー創出力を細かく精査するというよりは、借手企業の事業規模や返済能力などといった総合的な信用力を審査する事となる。

プロジェクトファイナンスのメリット・デメリット

プロジェクトファイナンスのメリット

一般的に、プロジェクトファイナンスを用いる場合、プロジェクトの実行主体となる別会社を設立し、当該会社の名義で銀行から借り入れを行う事になる。プロジェクトを企画・遂行する主体の会社から見たときに、プロジェクトファイナンスのメリット  としては、返済原資が対象となるプロジェクトの為に設立した別会社が生むキャッシュフローに限定出来る為、万が一プロジェクトが失敗に終わった時、当該別会社を精算すれば良いだけであり、プロジェクトへ投資を行う親会社に対して返済の義務が遡及してこない点だ (※プロジェクトの性質によっては、親会社が返済義務を部分的に負担する事もある。また、スキーム図は後述する)。例えば、韓国電力公社が発電所を建設し、稼働中に何等かの原因で破綻してしまった場合、コーポレートファイナンスで資金調達をしていた場合、借りた資金はすべて韓国電力公社が責任をもって全額返済する必要がある。一方、リコース義務のないプロジェクトファイナンスで調達をしていた場合、極論をすれば当発電所を運営する為に設立していた別会社を精算すれば韓国電力公社が返済義務を負うことはない。プロジェクトファイナンスを活用するエクイティ投資家の目線に立てば、少ない自己資金で大規模なプロジェクトを実現させる事ができ、高いレバレッジ効果を得る事を通じて、エクイティ投資に対するリターンを極大化する事ができる。

プロジェクトファイナンスのメリットまとめ

  • 別会社として融資を受けるため、事業会社本体は返済の責任を負わない
  • 大規模な先行投資が必要なプロジェクトであっても、一部の自己資金拠出で可能

プロジェクトファイナンスのデメリット

他方、プロジェクトファイナンスのデメリットとしては、融資の組成に際して時間や費用等のコストが多くかかる点がある。例えば、後述するがプロジェクトが抱える潜在的なリスク  に対して、契約での取り決めを細かく作り込んでいく事から、融資関係の契約書の量は膨大となり、これを交渉しレビューする弁護士費用も相当な金額となる事が一般的だ。この為、一定以上の規模のプロジェクト向けでないと、プロジェクトファイナンスを組成する事の費用対効果が合わない事も間々ある。また、ファイナンスの組成時だけでなく、事業が実際に運営を開始してからも、長期間に渡ってレンダーから様々な制約を課されたりモニタリングを受けたりする事が一般的であり、これに要する事務的な負担やコストもかかる事となる。

プロジェクトファイナンスのデメリットまとめ

  • 融資が実行されるまでに多大な時間と労力を費やす
  • 銀行への綿密な報告や厳格な融資契約基準に則って事業を運営する必要がある

プロジェクトファイナンスの基本ストラクチャー

プロジェクトファイナンスの基本的なストラクチャーを、架空の会社である豊洲商事、日比谷銀行、築地エンジニアリング、銀座電力の4社を用いた例を使って説明したい。

  • 国内総合商社である豊洲商事 が、日本国内にバイオマス発電所を建設・運営する事業を計画している
  • 豊洲商事は 100% 子会社となる特別目的会社SPC (Special Purpose Company) を設立し、自己資金を80億円出資する。更に、日比谷銀行 から300億円をプロジェクトファイナンスで融資を実行し、合計380億円で築地エンジニアリングに80MWの発電所建設を発注する
  • 特別目的会社 (SPC) は銀座電力へ売電で得た収益を原資として、日比谷銀行に融資の返済を行う

これらをストラクチャー図にすると以下の左図の通りとなる。仮に、このプロジェクトを豊洲商事がコーポレートファイナンスで資金調達する場合、右図の様になる。

プロジェクトファイナンスの市場規模

経済成長の著しい新興国を中心としたインフラストラクチャーへの整備や需要が底堅く推移している需要側の事情に加え、先進国を中心に政策金利が低く抑えられ、国債等の公債やコーポレート等への貸し出し金利が低水準な中で、より高い手数料収入や貸し出し金利の獲得を狙う銀行等の資金供給側の思惑も一致し、プロジェクトファイナンスの市場規模は安定的に推移している。三井住友銀行 (*1) によれば、全世界でのプロジェクトファイナンスの融資金額は2010年以降、年間2,000億ドルを上回る規模となっている  。また、同誌によれば、世界のインフラストラクチャーへの年間の投資需要は2013年に2.6兆ドルであった水準が、2020年3.3兆ドル、2030年には4.5兆ドルまで拡大すると予測されており、これに伴ってプロジェクトファイナンスへの市場規模も底堅く推移すると見られている。

プロジェクトファイナンスにおけるリスク

プロジェクトファイナンスを供与するレンダーの観点から、プロジェクトファイナンスにおけるリスク を網羅的に分析し、適切にヘッジしていく事が極めて重要となる。ここでは、インフラストラクチャー事業におけるプロジェクトファイナンスの検討の際に一般的に論点となりうるリスク項目について概観したい。少し古い資料になるが、2004年に日本政策投資銀行によって行われたセミナー資料 (*2) が網羅的で分かりやすいため、下図と通り引用する。

(*2) 日本政策投資銀行・国土交通省PFIセミナー資料・2004年10月15日より

対象となるプロジェクトが国外となるクロスボーダーの案件の場合、当該国における政治情勢や治安情勢の変動によってプロジェクトの収益性にダメージが及ぶリスクや、場合によっては接収等を通じて事業の中断を余儀なくされるリスク等がある。また、仕向地がどこであったとしても、自然災害等の不可抗力事由によってプロジェクトが予定されていた返済原資を生み出せないリスクはぬぐい切れない為、関連する保険の付保等は必須となる。ここでは、プロジェクトファイナンスを供与するレンダーにとって、想定していたキャッシュフローがプロジェクトから創出されない事の原因となりえるコマーシャルリスク項目の中でも主要なものと、その一般的なヘッジ策についてより詳述する。

完工リスク(工事完成リスク)

  • 最初に述べた通り、プロジェクトファイナンスはインフラストラクチャーを始めとする大規模な建設を伴うプロジェクトで多く活用される。従って、プロジェクトの初期段階では設備が建設中であるため一切の生産活動ができず、したがって売上も収入も得られない場合がほとんどだ。完工リスクとは、プロジェクトで用いる設備の整備や建設の難易度が高い場合に、当該設備が予定通り完成し、スケジュール通りに事業を開始できないリスクを表す。なお、当初発注していた業者が完工できない場合というのは、得てして当初決められた予算内で工事ができない事が大半である。そのため、完工する為に必要となる追加資金の工面をどうするか想定しておく必要や、代替となる業者への発注の元手になる資金も必要となる。
  • 完工リスクを評価するに当たり、プロジェクトに用いられる生産設備の建設の技術的難易度や工法に対する技術的確立性等について、専門家となる技術コンサルタント等から第三者評価レポートを取得したり、施工を担当するコントラクターの類似施工実績等を分析する事が多い。また、必要に応じてプロジェクトのスポンサー (出資者) に債務保証を要求し、万一完工できなかった場合に融資金額全額を弁済させる約束を取り付ける事もある。完工保証を供するスポンサーとしても、発注先のコントラクターに対して賠償請求を繋げる形にしている事が多い。従って、プロジェクトのキャッシュフローに依拠するプロジェクトファイナンスではあるが、規模の大きい案件であればあるほど、スポンサーやコントラクターの信用力も重要な要素となる事が多い。

需要リスク(マーケットリスク)

  • 当該プロジェクトの収入の源泉となる需要に変動があるか否かは、プロジェクトが予定されていたキャッシュフローを安定的に確保できるか否かに重大な影響をもたらす。例えば、固定価格買取制度等により、生産した全量の買取が約束されている太陽光発電等の日本国内の再生可能エネルギープロジェクトでは、需要リスクは限りなくゼロとみなされる(注:但し、昨今、太陽光発電等の急増に伴い、需給の緩む日にち・時間帯において出力抑制の指令を受け、売電に制約が出る事も増えており、この点において再生可能エネルギー発電事業においても一定の範囲で需要リスクは存在する。)他方、一日に何人が何回利用するか約束のない旅客鉄道プロジェクトでは一定の需要リスクが内在するとみなされる。特に後者のようなプロジェクトにおいては、何等かの事情により利用者が減り、プロジェクト会社にとっての収入が減じたときの手立てを考慮しておく必要がある。
  • 需要リスクの評価は、案件の性質によって様々な方法があるが、例えば旅客鉄道プロジェクトにおいては、第三者の専門機関による綿密な需要予測が行われる。新規路線であったとしても、類似する鉄道路線があれば、その路線の長期間の需要の実績を分析ができるので、類似路線がない場合に比べた予測精度も高まる。こうした需要リスクに対するレンダーの対策としては、想定需要シナリオの最悪シナリオでも返済に困らない水準のDSCRを満たせる金額に融資金額を抑える事や、もしそのプロジェクトが公民連携の事業であれば、公共側にも一定の支援やサポートを求めていく事などがある。例えば、旅客鉄道事業であれば、アベイラビリティペイメント方式というものがあり、利用者数に関わらず、公共側からプロジェクト会社に対して一定の事業運営に対する報酬が支払われる事業方式もある。

原料調達リスク(操業リスク)

  • 太陽光や風力を使った発電事業であるならば、プロダクトである電力を生産する為の原料は不要だが、化石燃料やバイオマス燃料など、燃料を焚いて電力を生産・販売する種の事業であれば、こうした燃料が安定的に調達できない場合には、収益を安定して得られない事につながり、当該プロジェクトのキャッシュフローの安定性を損なうリスクとなる。石炭、天然ガスや木質ペレット等を燃料として発電事業を計画する場合、事業は一般に20年を超えるような長期間に及ぶため、その調達価格や為替変動により、プロジェクトの収支が悪化するリスクも存在する。
  • こうした原料調達リスクを評価するには、原料の調達の契約で長期に及ぶ調達量・価格・為替の各条件が固定で契約できている事が理想的ではある。そして、仮にそのような長期での条件を固めた契約を締結できたとしても、契約の相手方に事業期間の途中で倒産されてしまったら元も子もないので、調達契約先企業の信用力の見極めも重要となる。仮に、その企業体の信用力が低い場合、万が一燃料供給を継続できなくなった場合に、その代替供給義務をスポンサーに保証させる場合もある。他方、事業期間に相当する長期調達契約が締結できず、事業期間と調達契約期間に欠け目が出た場合、その期間に当該原料が売買される市場からスポットで調達せざるを得なくなるが、その場合の当該原料の需給や価格トレンドの見込みについて、専門家・専門機関からの調査レポートを取得し、当該プロジェクトにとっての当該リスクの度合いを評価検討する方法もあり得る。

プロジェクトファイナンスの事例

日本国内で最近融資契約が締結され、事業の建設が進む木質ペレット焚きバイオマス発電プロジェクトを例にとってプロジェクトファイナンスの事例を紹介したい。本件、日本国内で最大級の規模を誇るバイオマス専焼発電プロジェクトであり、一般家庭約14万世帯向けの電力供給量を生み出す規模である(*3)。その発電規模を賄う燃料を確保するために、燃料となる木材を海外から長期で輸入をする必要を持つプロジェクトだ (*4) 。総事業費は非公開であるが、この規模から推察するに、数百億円規模となり、燃料費だけでも毎年数十億円を下回らない規模とみられる。バイオマス発電事業は再生可能エネルギーの一種として、固定価格買取制度のもと、出力抑制の指示がない限り安定的に販売できるため、需要リスクは限定的である。

また、完工リスクについても、類似する規模の火力発電所は日本でも様々な場所で建設実績があり、相違点もあれどクリティカルな論点にはならないのであろうと想像される。他方、年間30万トンの規模の燃料を北米・東南アジアから輸入するにあたり、長期の調達量・価格・為替の変動をどうヘッジするか、という論点は恐らく機微なものであり、様々な議論を要したものと推察される。世界中での脱炭素のトレンドの中、石炭火力発電所を改造し、木材を使ってバイオマス発電化させていく動きもあり、長期に渡って木材を安定的に輸入できるかどうかという事そのものについてもセンシティブな議論となっている。地域の電力プロジェクトであるが、様々な関係者の緻密な検討と尽力の上に成り立っている国内でも先進的なプロジェクトと言える。概要を下記に要約する。(*5)

  • プロジェクト特定目的会社名:下関バイオマスエナジー合同会社
  • スケジュール:2019/6 着工、2022/1 商業運転開始予定
  • 発電種類・容量:バイオマス専焼・75MW
  • スポンサー:九電みらいエナジー85%、西日本プラント工業 9%、九電産業6%
  • プロジェクトファイナンス Lead Arranger:日本政策投資銀行 (DBJ)
  • 共同融資行:山口銀行、三井住友信託銀行 (SMTB)
  • 燃料供給:合計30万トン/年、カナダ木質ペレット+ 東南アジア PKS
  • 融資金額:非公開

出典
*1) 三井住友銀行・「プロジェクトファイナンス」2018年6月
http://www6.econ.hit-u.ac.jp/smbc/download/2018/180627.pdf
*2) 日本政策投資銀行・国土交通省PFIセミナー資料・2004年10月15日
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/policy/pfi/h16seminar/saitama/saitama-isii.pdf
*3) 日本政策投資銀行プレスリリース・2019年5月24日
https://www.dbj.jp/ja/topics/dbj_news/2019/html/0000034055.html
*4) 九電みらいエナジープレスリリース・2019年5月24日
https://www.q-mirai.co.jp/news/archives/172
*5) 日経BP・メガソーラービジネス・2019年5月28日記事 
https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/news/16/052812228/?ST=msb
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