株主ローンとは

May 22, 2022
Finance
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用語解説目次

株主ローンとは

株主ローンのメリット・デメリット

株主ローン活用時の税制面における留意事項

株主ローンのDEレシオの計算

  • 考察:DEレシオの意味合いとは

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株主ローンとは

プロジェクトファイナンスの文脈における株主ローンとは、プロジェクトのスポンサー (出資者)がプロジェクト会社に対してローンの形で資金を貸し付ける事を意味する。資金の出元は出資者と同一になるが、あくまで契約上の弁済義務をプロジェクト会社に負わせる形で資金を「貸付ける」という点において、プロジェクト会社に資金の弁済義務のない「出資」との違いがある。株主劣後ローンとも言う。

株主ローンのメリット・デメリット

株主ローンのメリットとしては、以下の3つがある。

  1. 損金算入
    プロジェクト会社の視点からみれば、支払利息を税務上の損金に算入できることから、課税所得を減らすことに繋がり、節税の効果がある。出資に対する分配として配当金があるが、プロジェクト会社は配当金を税務上の損金にはできないため、同じ金額の資金をプロジェクト会社に拠出して、同じ率の分配を受ける場合、株主ローンとして拠出して利息として分配された方が、配当として分配されるよりもプロジェクト会社の課税所得は低くなる。
  2. 返済スケジュールの柔軟性
    返済方法についても一般的な銀行等からのローンに比べて返済スケジュールを遅く設定、ないし他ローンの返済後に一定の水準の現金が残余していた場合にのみ返済されるなど、柔軟性が高い事が多いのも借手にとってのメリットと言える。
  3. 分配の早期化を通じたEIRR向上
    シニアレンダーとの間のコベナンツのもと、プロジェクト会社に利益剰余金が蓄積しないと株主に対して配当金が出せない事が多いのに対し、株主ローンでは約定スケジュールに基づき利益剰余金の累積がなくとも株主に対してキャッシュを元利金として分配できることから、株主にとっての早期投資回収、すなわちIRRの改善効果も期待できる。
  4. 議決権比率を変えずに新規投資家をプロジェクトに招き入れられる
    プロジェクトが進行している途中で、新たな投資家を招聘する際に、従前の出資者間の議決権の比率を変えることなく、プロジェクトに対して金員を受け入れることができる。議決権のない優先株出資に似た位置づけ。

他方、株主ローンのデメリットとしては、借入を受けるプロジェクト会社の視点から見れば一般的に銀行等から借り入れる通常のローンに比べて借入利率が高い事が多い点にある。

株主ローン活用時の税制面における留意事項

株主ローンを使えば上述の通り、貸付先のプロジェクト会社からの支払利息を受け取れるが、この利払いはプロジェクト会社の段階では損金算入される。利息を受け取った側の主体が日本国内にある場合、プロジェクト会社の段階であれ、親会社の段階であれ、日本国内の法人税率で最終的に課税が為されるので、税務当局としてもそれほど問題視しないであろうが、日本よりも法人税率の低い国に税籍を持つ外国株主が、日本での課税逃れを画策して株主ローンを活用すると、日本のプロジェクト会社段階での課税所得を不当に減らされてしまう恐れがあるので、以下の2点の税制上の規制がある。外国株主からの出資を受ける場合、考慮する必要がある。尚、概念としては下記の通りだが、詳しい数値やクライテリアは時期によって変化もあるため、財務省・国税庁の最新の情報を参照されたい。以下には、財務省のウェブサイトより2点の説明を引用する。

財務省 過小資本税制の概要より引用する。(*1)

過小資本税制

・企業が海外の関連企業から資金を調達するのに際し、出資(関連企業への配当は損金算入できない)を少なくし、貸付け
(関連企業への支払利子は損金算入できる)を多くすれば、わが国での税負担を軽減することができる。
・過少資本税制とは、海外の関連企業から過大な貸付けを受け入れることによる企業の租税回避を防止するため、出資
 と貸付けの比率が一定割合(原則として、外国親会社等の資本持分の3倍)を超える部分の支払利子に
 損金算入を認めないこととする制度

財務省 過大支払利子税制の概要より引用する。(*2)

過大支払利子税制

・企業の所得の計算上、支払利子が損金に算入されることを利用して、関連者間の借入れを恣意的に設定し、関連者全体の
 費用収益には影響させずに、過大な支払利子を損金に計上することで、税負担を圧縮しようとする租税回避行為が可能。
・近年、主要先進国では、租税条約において利子の源泉地国免税を進めるとともに、支払利子の損金算入制限措置を
 強化する傾向にある。わが国の場合、過大な支払利子を利用した所得移転を防止する措置が十分でなく、
 支払利子を利用した課税ベースの流出のリスクに対して脆弱。
・過大支払利子税制とは、所得金額に比して過大な利子を関連者間で支払うことを通じた租税回避を防止するため、
 関連者への純支払利子等(注)の額のうち調整所得金額の一定割合(50%)を超える部分の金額につき当期の損金の額に
 算入しないこととする制度。

株主ローン活用時のDEレシオの計算

株主ローンは一見すると矛盾する二つの言葉がセットになったような言葉であるが、これは一体「負債」または「資本」のいずれに該当するのだろうか?当然のことながら、借手のプロジェクト会社からみたら返済義務がある資金なので負債と言える。一方で、シニアローンをプロジェクト会社に対して拠出するレンダーから見れば、資金の出し手が株主と同一という意味において。自らが拠出している「負債」とは別の性質のものとして数える。更に、同事業の株主にとって、株主ローンを出す意味合いとしては、資本金で出すべき所をローンの形で拠出しているだけであり、拠出したキャッシュも、利息として受け取る収益も株主として当プロジェクトから得るリターンの計算に含みいれる。この点において、株主にとっても株主ローンは資本の一種とも考えられる。

つまり、負債か資本かの議論は、誰の観点から見ているのかに拠る

  • プロジェクト会社:負債
  • シニアレンダー:資本 (DEレシオの計算においてDに含みいれない)
  • 株主:資本(自らが資本金の代わりに拠出したもの)

考察:DEレシオの意味合いとは

事業開始時点で、レンダーケースの想定キャッシュフローを基に、レンダーの要求するDSCRから当プロジェクトにおいて借り入れる事の可能な金額、すなわちデットサイズが決まる。当プロジェクトに必要なイニシャルコストから、上記の借入金額を差し引いた金額が、すなわち株主が用意しなければならない金額になる。この結果として事業開始時点のDEレシオが決まる。その後は、レンダーとして、シニアローンよりも早く資本の回収をしないでほしいという意味でDEレシオを維持する趣旨のコベナンツが設けられる。この意味で、株主ローン残高と出資金の合計を資本 (Equity)と考えて、負債 (Debt)とのの比率を維持しろという整理のもと、シニアローンを返すまで株主ローンを返済させないか、シニアローンとプロラタ以上の返済スピードは許さないのが一般的だ。シニアレンダーから見れば、株主ローンは出資金の代わりに入れている為、シニアよりも早く返済させないものとみなす。別の言い方をすれば、DEレシオ維持のコベナンツとは、「シニアレンダーより早いスピードで元本回収をしないでほしい」という思想に基づいている。

出典)
(*1) 財務省 過小資本税制の概要 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/179.htm
(*2) 財務省 過大支払利子税制の概要 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/335.htm
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